彼女がパソコンに向かってカタカタと何かを打ち込んでいる。画面を覗き込んでみると、どうやら結婚相談所について調べた情報をExcelにまとめているようだった。
「どう、いい結婚相談所は見つかりそう」
「県内だけで100ヵ所以上あるから。でもだいぶ絞り込めたよ」
彼女とは結婚相手が見つかるまでという条件で交際している。そのため、僕の前でも構うことなく婚活についての情報を調べている。
それにしても結婚相談所がそれほどたくさんあることに驚いた。マッチングアプリで気軽に出会える世の中になってもなお、高いお金を払って結婚相談所に登録する人がそれだけいるということだ。
「マッチングアプリではいい人に出会えないの」
「砂漠の中で砂を見つけるような作業だから。コスパが悪すぎる」
マッチングアプリの戦略として、男性はよほどスペックが高くない限り相手を選べる立場になく、手当たり次第女性にアプローチして興味を持ってくれた人と関係を深めていこうとする。最低限の容姿や性格へのこだわりはあるものの、ストライクゾーンは割と広めだと思う。
対して女性は、数多くアプローチしてくる男性の中から精査して理想の相手を見つけ出すと女友達に教えられたことがある。アプローチしてくる男性は多い人だと500人以上にのぼる。それほどたくさんの人からアプローチされたら理想の相手も見つかりそうだが、選択肢が多すぎても選びきれないのかもしれない。
「どういう人が理想なの」
「孤独を埋めてくれる人。繊細な性格で、一般の世界で生きることの違和感を分かちあえる人がいい。こんなこと言ったら結婚相談所の人に笑われるかな」
「僕だって繊細だし、他の人とは違うって感じながらずっと生きてきたよ」
「でも、もう乗り越えたんでしょ」
「それは年齢を重ねるうちに少しずつ強くなれたから。もし最初は同じ感性だったとしても、その人が先に孤独を乗り越えたらどうするの」
「いい質問だね。考えてみる」
悲しかったのは、僕では彼女の孤独を埋められないと思われていることだ。所詮、彼女が結婚相手を見つけるまでの期間限定の関係。それでも僕と一緒にいてくれるのは、わずかでも僕の存在が彼女の孤独を満たすのに役立てているからだろう。
「そういえば、どうして私がこんなに結婚を焦っているか話してなかったよね」
「うん」
「私のお母さん、病気で数年以内に失明する可能性が高いんだ。だから、お母さんの目が見えなくなる前に子供の姿を見せてあげたい」
彼女の両親は養護施設で出会い結婚した。そのため親戚はいない。兄弟はいるが気軽に連絡を取り合える関係でもない。母とは関係が悪かった時期もあるそうだが、今では一緒に食事をしたり恋バナもするほど仲良しで、彼女にとって唯一心を許せる肉親だ。
「もし2年以内に相手が見つからなかったら僕と結婚するのはどうかな」
「ははは、いいよ」
「でもきっと、それは叶わないと思う。もし理想の人と出会って結婚できなかったら、君は死ぬつもりでしょ」
「...ふふふ、勘がいいね。そうだよ。もし結婚できなかったら死のうと思ってる」
彼女にとって結婚すること、そして母親に子供の姿を見せることは生きる希望となっている。付き合う前に彼女と愛着障害の悩みについて語り合ったとき「愛着の問題を解決する唯一の方法は安心できる人と結婚すること」と言っていた。きっと彼女は今でもそう信じている。
僕が彼氏としてすべきことは彼女を死なせないこと。一緒に楽しい思い出をたくさん作り、悲しいことがあったらいつでも話を聞く。彼女の孤独を隙間なく埋めることができなくても、一番近い存在として彼女に寄り添っていきたい。